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グランド・ティーチャーズ
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いなくなってしまった人たち、Gonersへの思いが歌われたローラ・ギブソンの最新作


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 ぼくがローラ・ギブソン(Laura Gibson)の歌を初めて聞いたのは比較的最近のことで、彼女が2008年に発表した6曲入りのミニ・アルバム『Six White Horses』をたまたま手に入れ、耳を傾けた。ビブラフォン、グロッケンシュピール、ハーモニカ、ウォッシュタブ・ベース、新聞紙のスネア・ドラムや足踏みのパーカッションなどさまざまな楽器や楽器のようなものを手がけ、アルバム・ジャケットの絵まで描いてしまっているジェイソン・レナード(Jason Leonard)とガット・ギターを弾きながら歌うローラの二人で、ある週末、オレゴン州セルウッドにあるビクトリア様式の古い家のキッチンやフロント・ポーチ、それに地下室で録音されたものだ。そこで取り上げられている曲は、トラディショナルの「All The Pretty Horses」や「Black Is The Color of My True Love’s Hair」、エリザベス・コットンの「Freight Train」、ブラインド・レモン・ジェファースンの「One Dime Blues」、マンス・リップスコムの「One Thin Dime」、ファリー・ルイスの「Dryland」の6曲で、ほとんどがローラとジェイソンの二人だけでの演奏だが、近所に住むミスター・ファンタスティックと呼ばれていて誰も本名を知らない音楽ノコギリ演奏家がウィスキーのボトル一本のギャラでレコーディング・セッションに参加して素晴らしい演奏を聞かせ、レコーディング・エンジニアのショーン・オギルヴィーもピアノを弾いている。

 全曲がトラディショナルかブルースのよく知られている曲で、それらをもとの歌からそれほど遠ざかることのない素朴でオーガニックなアレンジで演奏し、ローラの歌声も昔のレコード・プレイヤーのスピーカーを通して古風な感じで録音されていることから、ぼくはローラ・ギブソンのそんな古くて新しいフォーク・ソングやブルースに魅了されながら、彼女はそうしたスタイルで自分の音楽を追求しているミュージシャン、温故知新のミュージシャンなのではないかと最初は受け止めた。
そして2008年の『Six White Horses』を出発点に、ローラ・ギブソンの音楽を過去へと遡り、そこから現在まで追いかけてみると、『Six White Horses』は彼女のキャリアの中では異質というか特殊なアルバムで、本来はギターを弾きながら自分のオリジナル曲を歌う、21世紀になってから本格的な音楽活動を始めたアメリカのコンテンポラリーなシンガー・ソングライターの一人だということがわかったのだ。

 ローラ・ギブソンは1979年8月9日にオレゴン州の太平洋沿岸にある林業の町、コキーユ(Coquille)で生まれた。学生時代にクラシックのチェロを学び、大学は医療関係に進んだ。大学を卒業するとローラは同じオレゴン州のポートランドに移り住み、一時的な仕事をいろいろとこなしながら自分の曲を作り始め、できあがった曲をホスピスの入所者の前で歌ったりした。
 2004年に自主制作のEP『Amends』を発表し、2006年にはデビュー・アルバムの『If You Come To Greet Me』をポートランドのインディー・レーベル、ハッシュ・レコード(Hush Records)からリリースした。2008年には前述したミニ・アルバムの『Six White Horses』、2009年にはセカンド・アルバムの『Beasts of Season』が続いた。この頃に彼女は同じポートランドの人気バンドのザ・ディセンバリスツ(The Decemberists)のメンバーたちとも交流するようになった。
 2010年にローラはポートランドの音楽シーンの仲間、イーサン・ローズ(Ethan Rose)とのコラボレーションで『Bridge Carols』というアルバムを作り、そこで彼女はいろんな場所でフィールド・レコーディングを行い、いつもとは違う歌い方で自分のヴォーカル・スタイルの幅を広げ、実験的な音楽を試みている。
 ローラのサード・アルバムは地元オレゴン州の北東部にある町の名前をタイトルにした『La Grande』で、2014年に彼女はオレゴン州からニューヨーク・シティへと引っ越し、ハンター・カレッジで小説の創作を学び、美術学修士号を獲得した。そして2016年の春には4枚目のアルバム『Empire Builder』がシアトルのインディーズ・レーベル、バースーク・レコード(Barsuk Records)からリリースされた。

 2008年の『Six White Horses』でローラ・ギブソンを知ったぼくは、その後彼女の歌の世界に深く入り込むこととなったが、そんな彼女の最新アルバムは昨年2018年の10月末にバースーク・レコードからリリースされた『Goners』だ。手に入れてから何度も何度も聞き返し、ローラのアルバムの中でぼくがいちばん気に入っているアルバムとなっている。ジャケットには犬が窓から外を見ている、とても素敵な絵が使われている。
「Goner」とは、死者ということ。そのとおりローラの5枚目のこの最新アルバムでは、彼女の前からいなくなってしまった人たちのこと、別れの悲しみや喪失感のことが歌われている。
「『Goners』のためにわたしが書いた曲は、深い悲しみや親しい交わりの中で喪失感を分かち合って癒されることをテーマにしている」と、ローラは語っている。「お互いのトラウマや深い悲しみを引き受け合う行為は、奇跡のように素晴らしいことであると同時に、厄介で混乱させられることでもある。若い頃は優しさを追い求め、それを受け入れるいろんな方策を、誰もが身につけている。大人になれば、そういう方策をひとつひとつ手放すようになり、新たな別のやり方を身につけて行く。ひとつひとつ手放していくこと、ひとつひとつ取り除かれてしまうこと、そんなことをわたしは歌にしたかった」
「深い悲しみについてのアルバムを自分が作りたがっているとわたしはもう随分と前からわかっていた。ある意味、わたしが書いてきた曲はすべて深い悲しみと関わりがあると言ってもいい。今回、わたしはその深淵を自分に無理強いしてでもしっかりと覗き込んでやろうと思った」とも、ローラは言う。新しいアルバムの中の曲には十代の頃に父親を失った彼女の気持ちが歌われているものもあれば、彼女自身が親になるべきかどうかを思い悩むそんな気持ちが歌われているものもある。
「近い将来自分が向き合わなければならなくなるであろう悲しみは、わたしを過去の悲しみにも向かわせる。悲しみの地図には二つの地点がある。その間の領域をわたしは探検してみたかった」

アルバム『Goners』には、タイトル曲の「Goners」や「Performers」、「Tenderness (優しさ)」や「Clemency(寛大さ)」、「Domestication(順応)」、「I Don’t Want Your Voice To Move Me」など全部で10曲が収められていて、歌詞は女性が狼になったり、男性が機械になったり、なくした子供たちがバックミラーの中で手を振っていたりと、これまでになく寓話的で、この作風の変化というか進化は、ハンター・カレッジで創作を学び、修士号を取った成果の現れなのではないだろうか。
アルバムは2016年の前作『Empire Builder』と同じくローラとエンジニアのジョン・アスキュー(John Askew)との共同プロデュースで、初期の頃と変わることのないローラがガット・ギターで弾き語っているような曲もあるが、全体的にリズムが強調され、ストリングスや木管楽器のアンサンブルが彼女の「寓話的な世界」をファンタスティックに包み込んでいる。
日本ではまだまだよく知られていないローラ・ギブソンの魅惑と刺激に満ちた音楽の世界、一人でも多くの音楽ファンに耳を傾けてもらえたらと思う。デビュー・アルバムから順を追って聞いていくというのもいいが、ぼくとしてはこの最新作の『Goners』から遡って聞いていくやり方をお勧めしたい。

Gonersのジャケット
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<関連リンク>

ローラ・ギブソンのホームページ
https://www.lauragibsonmusic.com/

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