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グランド・ティーチャーズ
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エリック・アンダースンの80歳のバースデイ・パーティは3年後。


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 エリック・アンダースン(Eric Andersen)の新しいアルバムが今年2020年の6月19日にフロリダ州マイアミのY & T Musicからリリースされた。新しいアルバムといっても、彼の新曲が集められたアルバムではない。『Woodstock Under The Stars』というタイトルの3枚組のCDアルバムで、「星空の下のウッドストックで」というタイトルが付けられているように、エリックが2001年から2011年までの10年間にニューヨーク州東部の町、ウッドストックのカフェやイベント会場やスタジオで行ったコンサートやセッションでの演奏が収められている作品だ。「ウッドストックで暮らしたり演奏したりするのはとても特別なことだ。ただ単に一つの音楽的な川を渡るということではなく、そこはアメリカの最も偉大な音楽の泉の一つなのだ」と、エリックはアルバムのジャケットでコメントしている。

 3枚組のアルバムのディスク1には、2001年10月と2004年11月にWoodstock Guild’s Kleinert/James Art Centerで行われたコンサートの演奏曲が7曲、2003年11月にColony Cafeで行われたコンサートの演奏曲が4曲、そして2006年にNevessa Productionで行われたスタジオ・レコーディングの演奏曲が2曲収められ、そこに例外的に1991年7月のノルウェーのThe Molde International Jazz Festivalでのエリック・アンダースン、リック・ダンコ、ヨナス・フィエルの3人でのプロジェクト、Danko/Fjeld/Andersenが3人のサポート・ミュージシャンと共に行った演奏曲2曲が加えられている(この2曲は2002年にAppleseed Recordingsからリリースされたアルバム『One More Shot』のディスク2にすでに収められていたものだ)。3枚組のアルバムのディスク2とディスク3には2011年5月にNevessa Productionで聴衆を集めて行われ、翌6月にウェブで配信されたライブ録音コンサートの演奏曲が収録されている。

 それぞれの演奏には、ザ・バンドのガース・ハドスン(Garth Hudson)やザ・フーターズ(The Hooters)のエリック・バジリアン(Eric Bazilian)、ジョン・セバスチャン(John Sebastian)、ハッピー・トラウム(Happy Traum)、アーティ・トラウム(Artie Traum)、ジョー・フラッド(Joe Flood)、そしてエリックの奥さんのインガ・アンダースン(Inge Andersen)など、エリックと親しかったり、ウッドストックと深い繋がりのあるミュージシャンたちが参加している。ディスク2とディスク3のNevessa Productionでのライブ・コンサートでは、ハッピー・トラウムやジョー・フラッド、インガ・アンダースンが、それぞれボブ・ディランの曲をカバーしたり、自作曲を歌ったりしていて、エリック以外のシンガーがリード・ヴォーカルをとるそれらの曲もエリック名義のこのアルバムの中に収められている。
 それに異なる時期、異なる場所、異なるシチュエーションで演奏された曲が集められているアルバムということで、「Rain Falls Down in Amsterdam」、「Blue River」、「Violets of Dawn」、「Moonchild River Song」、「Goin’ Gone」、「Salt on Your Skin」と、同じ曲6曲が異なるバージョンでだぶって収録されている。

 3枚組のCD『Woodstock Under The Stars』には全部で35曲が収められていて、エリックのオリジナル曲が25曲で(そのうち6曲がだぶっている)、エリックがカバーして歌っている曲が1曲入っている(フレッド・ニールの「The Dolphins」)。そして前述したようにハッピー・トラウムがボブ・ディランの「Buckets of Rain」をカバーして歌い、ジョー・フラッドがオリジナル曲(アーティ・トラウム、ジム・ウェイダーとの共作)の「Niagara」を、インガ・アンダースンが自作曲の「Betrayal」を歌っている。
 エリックのオリジナル曲は、1960年代のフォーク・シンガー時代の「Thirsty Boots」、「Violets of Dawn」、「I Shall Go Unbounded」、「Close the Door Lightry」、70年代のシンガー・ソングライターとしての代表的アルバム『Blue River』の中の「Blue River」、「Wind and Sand」、「Is It Really Love at All」、1999年の傑作アルバム『Memory of the Future』からの「Rain Falls Down in Amsterdam」、「Goin’ Gone」、「Sudden Love」、そして2000年代に入ってからの曲、「Salt on Your Skin」、「Before Everything Changed」、「Don’t It Make You Wanna Sing the Blues」など、60年近くに及ぶエリックの音楽人生の中から、人気曲や決して外すことのできない重要な曲が万遍なく選ばれている。
 それらの名曲の数々がウッドストックの星空の下、あるいはウッドストックの風の中、懐かしいミュージシャンたち、あるいは新たなミュージシャンたちとのコラボレーションによって、オリジナルとはまた違った味わいでみずみずしく、鮮やかに蘇っている。

 エリックのオリジナル曲の中での比較的新しい歌としては、2011年のライブ・アルバム『The Cologne Concert』に収録されていた「Dance of Love and Death」や「Sinking Deeper Into You」、2018年にReal Gone Musicから発表されたベスト・アルバム『The Essential Eric Andersen』のダウンロード・バージョンに入っていた「Singin’ Man」などが挙げられるだろう。
 そういえば今からもう7年前のことになるが、2013年2月14日に70歳になるエリック・アンダーソンから、盛大にバースデイ・パーティを開くからと誘われて、彼が住んでいるオランダはユトレヒトの近くの小さな町までぼくは出かけて行った。その時のことはこの連載でも書いているが、そのパーティでエリックは春にリリースされる予定のアルバムに入っている曲だといって、何曲かを奥さんのインガや最初の奥さんのデボラ・グリーン・アンダースンとの間の娘で歌手でもあるサリ・アンダースン(Sari Andersen)と一緒に何曲かを会場で歌ってくれた。そしてすでに出来上がっているアルバムの音源も聞かせてくれた。
 アルバムはギタリストのスティーブ・アダボのプロデュースでニューヨークのスタジオで録音されていて、レニー・ケイやラリー・キャンベル、イタリア人のバイオリニストのミケーレ・ガジッチ(Michele Gazich)やインガも参加しているということで、アルバム・タイトルは『Dance of Love and Death』になるだろうとエリックは言っていた。
 しかし2013年の春になってもそのアルバムは発売されず、それから7年が過ぎた今もリリースされるという情報はまったく伝わってこない。そこには「Dance of Love and Death」や「Sinking Deeper Into You」、「Singin’ Man」も収められているはずで、それらの曲がライブ・アルバムやコンピレーション・アルバムで「小出し」にされ、「本命」の新曲を集めたスタジオ録音のオリジナル・アルバムが未だに日の目を見ないというのは、なんとも納得のいかない話だ。

 ここのところエリックは、アルベール・カミュをテーマにしたアルバム『Shadow and Light of Albert Camus』(2014年)、ロード・バイロンの詩に曲をつけた歌を集めたアルバム『Mingle with the Universe: The World of Lord Byron』(2017年)、ドイツの作家ハインリヒ・ベルをテーマにしたアルバム『Silent Angel: The Fire and Ashes of Heinrich Boll』(2017年)と、文学的なコンセプト・アルバムばかりを発表していて、いろんな新曲を集めたオリジナル・アルバムとしては、2002年の『Beat Avenue』以降、もう18年も待たされている。
 もちろん文学的なコンセプト・アルバム三部作も、有名なアメリカのモダン・フォーク・ソングの数々をカバーした2004年の『Street Was Always There: Great American Song Sereis, Vol.1』と2005年の『Waves: Great American Song Sereis, Vol.2』の姉妹作も、2007年の『Blue Rain』や2011年の『The Cologne Concert』といったライブ・アルバムも、どれも文句なしに素晴らしいものだったが、エリック・アンダースンの熱烈なファンの一人としては、今年77歳になった彼の新曲を集めた「ストレート」な新作アルバムをとても聞きたい欲求に駆られている。

 いつのまにかどこかに消えてしまったエリックの「ストレート」な新作アルバムの『Dance of Love and Death』は、もう幻となってしまったのだろうか? 
 そしてもうひとつ気になって仕方がないのが、エリック・アンダースンを追いかけたドキュメンタリー映画の『The Songpoet』だ。ポール・ラモン(Paul Lamont)が監督したこの映画の進行状況は早くからエリックのFacebookなどで逐次伝えられ、2019年には完成していて、予告編も見ることができる。
 コペンハーゲンのミュージック・フィルム・フェスティバルやミラノのワールド・シネマ、サンタ・バーバラ・インターナショナル・フィルム・フェスティバル、アメリカン・ドキュメンタリー・アンド・アニメーション・フィルム・フェスティバル、ペンシルヴァニアのヴェリタス・フィルム・フェスティバルなど、いくつもの映画祭でもすでに上映されているようで、唯一無比のソングポエト(歌う詩人)、エリック・アンダースンの60年に及ぶ音楽人生だけでなく、アメリカのモダン・フォーク・ソング・リバイバルの動きや旅するシンガー・ソングライターたちの大きな世界までをも捉えていると思えるこの作品が日本でも見られるようになることを願ってやまない。

 2013年2月、エリック・アンダースンの70歳のバースデイ・パーティに出席するためにオランダに行ったのはぼくが63歳の時だった。あれから7年、今は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のために誰もがツアーやライブ活動をすることが困難になっているが、77歳になったエリックは今年の春まで世界じゅうを旅して精力的にライブ活動を行なっていた。新しい曲も作り続けているし、今はどこかに篭って何かに熱心に取り組んでいるかもしれない。
 そしてぼくの大きな夢はといえば、考えるだけで興奮して熱くなって、からだが震えてしまうのだが、エリック・アンダースンの80歳のバースデイ・パーティに出席することだ。その時ぼくは73歳になっている。もちろん二人とも現役で歌い続けていることが絶対の条件だ。そんなことをぼくは勝手に夢想しているだけなのだが、ぼくにとっては歌い続ける上でのとんでもなく大きな励みとなっている。

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<関連リンク>

エリック・アンダースンのホームページ
http://www.ericandersen.com

レコーディング・セッションの動画はここで見ることができます。 
https://youtu.be/U2qg8FjYbJ8

The Songpoetの予告編。
https://www.thesongpoetfilm.com/trailer

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