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うたとギター
シンガー・ソングライターがギターを弾きながら一人っきりで歌っているアルバムを聴きながら…

「笑っていいとも」ラウドン・ウェインライト三世


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あなたは誰になりたいですか?と聞かれたら、この人と答える。

このアルバムを初めて聴いたのは10年ちょっと前ぐらいだったかな。ライブ盤なのだけど、観客の笑い声がよく聴こえる。MCで笑いが起こるのは珍しいことではないけれど、歌の途中でも、随所に観客からこぼれる笑い声。

ああ楽しそう。

笑えるような歌詞を挟むと、コミックソングと思われてしまったりもする。コミックソングを毛嫌いする、もしくはバカにするシリアスな音楽ファンも多い。けれど同じことを言うのなら、まじめくさってつまらないよりは、ユーモアがあっておもしろいほうがいい。弾き語りで2時間近く歌を聴いてもらうならなおさら、おもしろいに越したことはない。おもしろくないと聴き続けてもらえない。

そういえば大学に入ったばかりの頃に、この人のライブを見ているのだった。ファンになってからそのことを思い出した。ファンになるまではすっかり忘れていた。リチャード・トンプソンを観に行ったら、この人とのツーマン・コンサートだったのだ。1984年、池袋の豊島公会堂。なつかしい。

そういえばそのときも、笑い、笑いの楽しいコンサートだった。英語がわからないので僕はまわりにつられて笑うことしかできなかったけど、ラウドンさんのアクションが、ここは笑うところ、笑うところ、と僕らをうながしているようだった。ギターを弾きながら、歌いながら、からだを大きく揺らしながら、顔の表情も豊かに、「笑っていいとも」と言っていた。

俳優もしているぐらいなので、表現力が豊かなのだ。いや、表現力があるから、映画やテレビに呼ばれているのだろう。観ていないのだけど2007年に全米で大ヒットした"KnockedUp"(邦題『無ケーカクの命中男)にも出ている。サントラもやっている。

僕が「ハワイの詩」や「プレイボーイのうた」を書いたときには、このアルバムも、たしか、まだ聴いていなかったと思う。少なくともこの人に心酔してはいなかった。先ほど「コミックソングと思われて〜」云々と書いたのは、実は僕のそれらの歌が、そう思われたような気がした(する)からである。なので後からこのアルバムを聴いて、ああ、別に歌詞に“笑い”を挟むのは間違ったことではないのだ、と励まされた気持ちになった。

励まされたのは笑いの要素だけではない、この人が歌にしているのは身の回りに起きたことばかりを歌っている。音楽之友社の『名盤ガイド480 アート・オブ・フォーキー』に書かれた五十嵐正さんの文章によると、

「『告白調の私小説』という表現はこの男にこそ使うべき。自分の生きる日々に起こった事件をそのまま歌にする。アーティストの人生そのものを描く、究極のシンガー・ソングライターだ。」

とある。

究極のシンガー・ソングライター。そうか、だから僕はこの人になりたいのか。続けてこう書かれている。

「ラウドンは69年以来、少年期の出来事、ケイト・マクガリグルやサジー・ローチとの結婚生活と離婚、別れて暮らす父子の関係、中年の恋愛とセックスなど、実生活の出来事をそのまま題材に、ユーモアとペーソス、そして皮肉を交えて事細かに語って来た。」

ほう、中年の恋愛とセックス(笑)。ちなみに父子の子とは、あのルーファス・ウェインライトとマーサ・ウェインライトです。なんだか僕があれこれ書くよりも五十嵐正さんの文章を全部引用した方が、よっぽど素晴らしいような気がして来たのでそうします(笑)

「自分の感情をこれほどまでに正直に歌にできる勇気と大胆さに加え、彼は平易な言葉を巧みにもてあそんで、ユーモアやウイットに富んだ歌詞を作る技巧と、演劇を志したという経験が生きているのだろう、役者のような歌の表現力を兼ね備えているのが強みだ。」

素晴らしい。自分にこうあれと言い聞かせるように、書き(打ち)写してしまった、僕は演劇を志したことはないけれど。最後にこのアルバムの紹介部分。

「この93年のライブ作は全活動歴からの代表曲24曲をくつろいだ雰囲気で聴かせる本領発揮のアルバム。曲間のしゃべりや曲とのやりとりも実に楽しい。」

そう、実に楽しい。あいかわらず僕は英語はよくわからないのだけど、途中のMCで自分の名前がよく間違われることについて喋っているところでは、お客さんの反応もおかしくて、なんど聴いてもつられて笑ってしまう。吹き出してしまう。

蛇足ながら、ストローク中心で、なんちゃってブルーグラスな感じのギター・スタイルにも自分に近いものを感じて、やはり、この人みたいになりたいなあ(弾けたらなあ)と思うのでした。使っているギター(Martin D-28)もいっしょだし。

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