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ディランにあったらよろしくと
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「ザ・ボブ・ディラン・ショー」を見に行った。


ニューアルバム『トゥゲザー・スルー・ライフ』発売後のディランのツアーが7月1日より始まった。「ザ・ボブ・ディラン・ショー」と銘打った今回のツアーは、ウィリー・ネルソン、ジョン・メレンキャンプと組んで、8月16日まで全米のマイナーリーグの野球場を中心に回る。毎年少なくとも一度はコンサートを見ることにしているぼくは、ニューアルバム発売直後のこの機を逃してはならないと判断し、具体的な計画を立てることにした。ディランのコンサートは1カ所だけ見るのではなく、何カ所か続けてみるべきだ。なぜなら毎日セットリストが大きく変わるので、何度も見ればより多くの曲を楽しむチャンスが増えるからだ。


コンサートを見に行くと決めたら、次はチケットの手配だ。今回のツアーはほとんどの会場がGA席(General Admission)、つまり自由席なので従来のように必死になる必要はない。ただし、今回のツアーで絶対に見たいと思った会場のひとつであるベセル・ウッズ・センター・フォア・ジ・アーツだけは例外で、指定席も設定されている。この会場は、40年前にウッドストック・フェスティヴァルがおこなわれたヤスガーズファーム跡地につくられた施設だ。bobdylan.comの優先チケット発売が5月4日午前10時と発表された。とりあえず実際に行く行かないは後で決めることにして、無駄にしてもかまわないと思いながら、チケットだけは確保しようと日本時間4日午後11時の時報と同時にコンピューターのキーを打つ。結果は、幸運にもセクション3のC列の席(ステージ左サイド前から4列目、ボブを正面に見ることができるかなりの良席)が入手できた。これで、決まりだ。見に行こう。


6月中旬になって具体的な日程を立てることにした。ひとりで見に行くので、できるだけレンタカーを借りずに、公共交通機関だけで移動できることを考慮し、7月14日のペンシルヴァニア州アレンタウン、15日のコネティカット州ニューブリテン、18日のニューヨーク州ベセルウッズ、21日のロードアイランド州ポータケットの4カ所を見ることにした。4つの州に分かれているが、いずれもニューヨークを起点に鉄道やバスを使って短時間で移動できる。とくにベセルウッズにはコンサートに合わせた特別バス便がニューヨークから運行されているのでありがたい。


つぎはホテルの手配。ディランのコンサートを見に行くときは、できるだけ会場まで歩いていけるホテル、つまり一応の目安として2キロ以内のホテルを探すことにしている。今回も、この条件に見合ったホテルを見つけ予約を入れた。ぼくはホテルの予約はexpedia.comをメインに使っているが、より経済的なホテル探しにはhotwire.comを使うといいかもしれない。驚くほどの割引料金で予約を取ることができる。このサイトの問題は最終的に予約するまで具体的ホテル名が知らされないことだが、ニューヨーク市内など都会で探すときは、タイムズスクエア、ミッドタウンなど地域を限定して予約できるのでそれほど問題ではない。


ベセルウッズ以外のコンサートのチケットは、GA席なので予約もせずにいつでも入手できると決めつけていた。ところがこれが誤算だった。劇場のような小さな会場の場合はチケットの確保が重要だが、今回のような1万人をこえる大きな場所では、売り切れになることはほとんどないからだ。しかし、7月14日アレンタウンのコンサートがソールドアウトになったという記事が掲載された。本当かと思ってコンサートのチケットを扱うticketmaster.comで調べてみると、たしかに1枚も残っていない。それでもコンサート当日近くになれば、追加席が売りに出されるだろうし、会場に行けばどうにかなるだろうと安心してたかをくくっていた。それ以上に問題は、ticketmaster.comがアメリカとカナダにカードの請求先住所がないと購入できなくなっていたことだ。今回のディランだけかもしれないが、すべてのコンサートが同じような条件に変わっていたら、日本のファンには大問題だ。5月の時点では請求先が日本の住所でも、何の問題もなく購入できたのに。もし、ticketmaster.comの条件が変更されたとしたら、今後アメリカにコンサートを見に行く場合、チケットの確保をどうするかが大問題になる。なんとか従来のように、日本からでもチケット購入ができるようにしてほしいと願う。


7月14日。ペンシルヴァニア州アレンタウンのコンサート会場コカコーラパークから500メートルほどにある安ホテルにチェックインした。すぐにネットで調べてみると、予想通り当日券が売りに出された。いそいで会場のボックスオフィスに行ったが、当日券はすべてticketmaster.comの扱いで、会場の窓口には1枚もないという。日本の住所では購入できないので、なんとかならないかと交渉するが、チケットの現物が会場には1枚もないのでどうすることもできないという。最悪の場合はダフ屋から入手するしかない。このとき、もしかしたらアレンタウンにticketmasterの窓口があるかもしれないと思い調べてみると、運良くすこしはなれたショッピング・モールの中にあることがわかった。いそいでショッピング・モールに出向き、チケットを入手した。ついでに日本から購入できなかったほかの日の分も手に入れた。


5時開場、5時30分開演だったので、5時すこし前に会場に行くと、広い駐車場内を蛇行するように延々と長蛇の列ができていた。すべて自由席なので、あせることはないがとりあえず列に加わった。場内に入って観察すると、ステージ前よりもスタンドから先に人が埋まっていくようだ。長時間のコンサート、14歳以下の子供は無料ということで家族連れも多いことから、スタンドの観客席に座って楽しもうと思う人が多いようだ。ステージは外野のセンターポジションあたりに設置、外野部分の芝生に仮説フロアが敷設されて自由に出入りができる立ち見席になっている。内野のダイアモンドはテープで囲まれ進入禁止だ。スタンドの客席からだと70メートル近く離れて見ることになる。もちろん、ぼくはステージに近い外野の一角に陣取った。


5時30分、前座のバンド、ワイヨーズ(Wiyos)が演奏を始めた。ブルックリン出身の4人組グループで、初めて聞くバンドだったがいい感じだ。アメリカーナ、ブルース、オールドタイムミュージックと表現すればいいのかもしれないが、とてもユニークなバンドで3枚発表しているCDをすべて入手しようと思ったほどだ。前座バンドはどんなことがあっても決められた時間しかステージに立てない。ワイヨーズも30分間の演奏を終えるとステージから去っていった。また涙ぐましいことに彼らは別の会場では、会場の外で列をつくって入場を待つ観客の前で何曲か歌って聞かせていた。


つぎはウィリー・ネルソン。5人のミュージシャンをバックに1時間のステージを披露した。まるでストリーミング音楽を聞いているように途切れることなく歌と演奏が続く。ウィリーはしゃべりをはさまずに、例の穴の開いたギターを弾きながら、観客に笑顔を絶やさずに歌い続けた。76歳だというのに、艶のある伸びやかな声はいまなお健在だ。もちろんトレードマークのお下げに編んだロングヘアにバンダナ、ジーンズにTシャツという格好、最後にはバンダナを観客に放り投げる。まさにウィリーのショーマンシップに脱帽させられる。


つづいてジョン・メレンキャンプの出番だ。アコーディオンとヴァイオリンを含む5人のバンドをバックに、ジョンは時にギターを弾きながら、時にマイクだけを握りしめ、1時間の熱演を繰り広げた。3人の中ではいちばん若い57歳のジョンは、観客との掛け合いを交えながらステージ上を動き回る。やや気負いを感じたのは、ぼくが年を取っているからだろうか。

9時30分、ナグチャンパの香りが漂い始め、アーロン・コープランの組曲『ロデオ』から「ホー・ダウン」ファンファーレが響き、暗闇のステージにディランとバンドが姿を現した。黒いスースにスペイン風の帽子をかぶったディランが、デューセンバーグのエレクトリックギターを持って、ステージ中央のマイクの前に立った。いつもの紹介のアナウンスが終わると、同時に1曲目が始まった。オープニングの「ヒョウ革のふちなし帽」と、つづく「くよくよするなよ」の2曲をギターを持って歌ったあと、ディランは定位置のキーボドに移ってステージをつづけた。7月14日、アレンタウンのセットリストは以下の通り。

1. Leopard-Skin Pill-Box Hat
2. Don't Think Twice, It's All Right
3. Rollin' And Tumblin'
4. Spirit On The Water
5. Tweedle Dee & Tweedle Dum
6. Workingman's Blues #2
7. Honest With Me
8. If You Ever Go To Houston
9. Highway 61 Revisited
10. Ain't Talkin'
11. Thunder On The Mountain
(アンコール)
12. Like A Rolling Stone
13. Jolene
14. All Along The Watchtower

通常、アーティストはニューアルバムをプロモートするために、新曲を中心にセットリストを構成するが、ディランはちがう。この日も新曲はわずかに2曲だけだった。


翌朝、バスでニューヨークに戻り、さらにアムトラックの列車でコネチカット州バーリンに移動し、ニューブリテンのホテルにチェックイン。さっそく会場まで歩いていった。7月15日、ニューブリテンのセットリストは以下の通り。この日のハイライトは、もちろん初めてライヴで歌われた新曲「アイ・フィール・ア・チェンジ・カミン・オン」だ。それにしても、前日のセットリストと見比べると歴然だが、全14曲中重なるのはわずかに6曲しかない。しかもアンコールセットの3曲はほとんど固定されているので、メインセットは11曲のうち3曲しかダブっていない。これだから、ディランのコンサートは何度も見たくなるのだ。

1. Rainy Day Women # 12 & 35
2. Stuck Inside Of Mobile With The Memphis Blues Again
3. The Levee's Gonna Break
4. Tryin' To Get To Heaven
5. High Water (for Charlie Patton)
6. I Feel A Change Comin' On
7. Tweedle Dee & Tweedle Dum
8. When The Deal Goes Down
9. Highway 61 Revisited
10. Ballad Of A Thin Man
11. Thunder On The Mountain
(アンコール)
12. Like A Rolling Stone
13. Jolene
14. All Along The Watchtower

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18日、今回もっとも楽しみにしていたベセルウッズでのコンサート。12時30分にニューヨーク発の特別便のバスに乗り込む。大型バス2台で出発だ。17号線を延々と走り、途中休憩を挟んで3時間後にようやく到着。ニュージャージーとの州境に近い丘陵地に、15,000人収容の野外劇場とウッドストック・フェスティヴァルを記念するミュージアムなどが併設された美しい複合施設が造られている。1969年8月、ここに50万人が集まったのかと想像し、何かしらの感慨を覚える。

しかも40年前とおなじように雨も降ってきた。ただし、野外コンサート会場はステージに近い指定席の一部には屋根が設置されているので、雨でも濡れる心配はないが、後方の芝生席は屋根がないので観客はレインウエアを着込んでいる。さて、この日のセットリストは以下の通り。ハイライトはもちろん10曲目の「フォゲッタフル・ハート」。この1曲が聞きたくてアメリカまで来たといってもいいほど、新曲のなかで気に入っている歌だ。それまでステージ右に置かれたキーボードを弾きながら歌い続けていたディランは、ギターも持たずにステージ中央に歩み出て、この新曲を歌った。右手にハーモニカ用のハンドマイク、左手にハーモニカを持ち、両手を広げてスタンドマイクで歌った。

1. Leopard-Skin Pill-Box Hat
2. Don't Think Twice, It's All Right
3. The Levee's Gonna Break
4. The Lonesome Death Of Hattie Carroll
5. Tweedle Dee & Tweedle Dum
6. Po' Boy
7. It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
8. Workingman's Blues #2
9. Highway 61 Revisited
10. Forgetful Heart
11. Thunder On The Mountain
(アンコール)
12. Like A Rolling Stone
13. Jolene
14. All Along The Watchtower

11時にコンサートが終了して帰りのバスに乗り込んだが、道路が渋滞してまったく動かない。思わず40年前のフェスティヴァルでアーロ・ガスリーが「ニューヨーク・スルーウェイが閉鎖されたよ」とステージで叫んでいた場面を思い出してしまった。1時間ほど止まったままの状態が続いたが、ようやく交通整理員の指示に従い、方向転換し逆方向に走り出した。結局ホテルに戻ったのは午前3時だった。すぐにコンピューターをつけると、驚いたことに先ほど終了したばかりのコンサートが熱心なファンによって丸ごとネット上にアップされていた。すごい。

今回の旅の最後は、21日におこなわれたロードアイランド州ポータケットのコンサートだ。この日は一日中雨が降ったりやんだりのあいにくの天候だった。ディランは、いつものようにオープニングは今年の春にドイツで手に入れたといわれるデューセンバーグTV-ツートーン・サンバースト・ギターを持って歌った。2曲歌ったあとキーボードに移るだろうと見ていたが、ディランはギターを持ったまま、3曲目、さらに4曲目も歌った。過去5年間、ディランがギターを持って4曲続けて歌ったのはこの日だけだ。ディランの行動は、ほんとうに予想できない。ニューアルバム『トゥゲザー・スルー・ライフ』の全曲でギターを弾いているトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのマイク・キャンベルが愛用する彼のシグニチャーモデル、デューセンバーグ・スタープレイヤーTV-マイク・キャンベルを、ディランにプレゼントしたという。このドイツ製ギターをとても気に入ったディランは、もう1台べつにデューセンバーグTV-ツートーン・サンバーストをステージ用に入手したようだ。この日のセットリストは以下の通り。

1. Cat's In The Well
2. It Ain't Me, Babe
3. I'll Be Your Baby Tonight
4. This Wheel's On Fire
5. The Levee's Gonna Break
6. Masters Of War
7. It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
8. Po' Boy
9. Highway 61 Revisited
10. Ain't Talkin'
11. Summer Days
(アンコール)
12. Like A Rolling Stone
13. Jolene
14. All Along The Watchtower

「ザ・ボブ・ディラン・ショー」は8月16日カリフォルニア州ストックトンで最終日を迎えるが、ぼくの今年のディラン・ツアーはこれで終わった。いま満足感と寂しさが残っている。

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