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ディランにあったらよろしくと
ディラン作品を始めとして、素晴らしいアーチストの素晴らしい作品を、深?く語ります。

ヘッケルのプレイリスト2009:イッツ・オール・グッド


 2009年も終わりが近づいてきた。そこで今年ぼくが聴いたアルバムのなかで、みなさんにもお薦めしたいと思う25枚のアルバムとその代表曲を『ヘッケルのプレイリスト2009:It's All Good』として紹介する。

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 2009年はボブ・ディランがニューアルバムを2枚も発表するという、ファンにとっては大興奮の年だった。ディランは1941年生まれなので、今年68歳ということになる。かつて60年代には「30歳以上は信用するな!」といったスローガンがロックジェネレーションに広まっていた。もちろん、ぼくもそう思っていたし、68歳のディランが現役ロックアーティストとして活躍しているとは想像しなかったはずだ。ところが実際はちがった。ディランは2006年のアルバム『モダン・タイムズ』と同じように、今年の『トゥゲザー・スルー・ライフ』でもアルバムチャート初登場1位の記録を達成している。
 シカゴを中心とするエレクトリックブルースと南部テキサスの国境地帯を思わせるテックスメックスを取り入れた新作は、近年のディランが取り組んでいる伝統的アメリカンミュージックへの回帰を押し進めたものだ。おそらくこのアルバムは、グラミー賞でベストアルバム賞にあるいは来年から創設されるらしいベストアメリカーナ賞にノミネートされるだろう。

 もちろん高齢で活躍しているのは、ディランだけではない。今年はぼくの好きなベテランアーティストの活躍が目立った年だった。
 すばらしいブルースアルバムを発表したランブリン・ジャック・エリオット、15年ぶりのワールドツアーの一日、ロンドンのコンサートを完全収録したライヴアルバムとDVDを発売したレナード・コーエン、前作『This Old Road』もすばしいアルバムだったが今年も傑作を発表したクリス・クリストファソン、変わらないことはいいことだと言わんばかりに徹底して心地よいサウンドを聞かせ続けてくれるJ・J・ケール。彼らはみんな70歳を超えている。すばらしい。「いつまでも若く」と願っている。

 ガイ・クラークはテキサス出身のベテラン・シンガーソングライターでライル・ラヴェット、ジョー・イーリー、ジョン・ハイアットといっしょに頻繁にライヴをおこなっている。2006年のグラミー賞ノミネートアルバム『Workbench Songs』以来となるこのニューアルバムはじつにいい。
 トム・ラッシュのCDはライヴ盤や編集盤が発売されていたが、スタジオ録音の新作となると35年振りとなる。驚きだ。このアルバムにはエミルー・ハリス、ボニー・ブラムレット、ナンシー・グリフィスなども参加している。
 ジェファスン・エアプレインやホット・ツナで活躍してきたヨーマ・コウコネンも最近はソロ活動が目立つ。この新作ではアコースティックサウンドのアメリカーナを聞かせてくれる。数年前に病気が報道され、ファンを心配させたリーヴォン・ヘルムだったが、2007年の『Dirt Farmer』、そして今年の『Electric Dirt』と連続して傑作を発表し、健在振りを示してくれている。
 フォーク、ジャズ、スウィング、カントリーなどをミックスしたユニークなサウンドで独自の世界を築き上げたダン・ヒックスだが、新作で「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を歌っているのでディラン・ファンは聞き逃さないように。アコースティックギターの名手で知られるカナダ人のブルース・コバーンが発表した2枚組のライヴアルバムは、タイトル通りまったくのソロ演奏だ。あらためてギターのうまさに脱帽させられる。ちなみにガイ・クラーク、トム・ラッシュ、ヨーマ・コウコネン、リ-ヴォン・ヘルム、ダン・ヒックス、ブルース・コバーンは、ディランとほぼ同い年だ。

 もう少し若いアーティスト(それでも全員50歳を超えている)に目を向けると、エルヴィス・コステロ、スティーヴ・アール、トム・ラッセルの新作が心に残った。コステロはこれまでもパンクからカントリーまで多彩な音楽を聞かせてくれているが、今回のニューアルバムはアメリカーナと表現できる傑作だ。
 スティーヴ・アールはかつてディランよりもテキサス出身のシンガーソングライターのタウンズ・ヴァン・ザントのほうが優れていると受け取れる発言をしたことがあるが、このニューアルバムではその故人タウンズ・ヴァン・ザントの作品をカバーしている。もちろんアールの解釈もいいが、機会があればタウンズ・ヴァン・ザントのオリジナルCDを聞いてみるといい。なお、タウンズはディランの「マン・ゲイヴ・ネームズ・トゥ・オール・ジ・アニマルズ」などもカバーして歌っていた。
 トム・ラッセルはロサンゼルス出身だが現在はエルパソに移り住み、テックスメックス系のシンガーソングライターといってもいいだろう。音楽以外にも絵画や小説なども発表している。
 ラッセルと同系統のアーティストともいえるジョー・イーリーは、かつての仲間であるジミー・デイル・ギルモア、ブッチ・ハンコックといっしょにフラットランダースを再編しニューアルバムを発表し、ツアーもおこなっている。

 ぼくは年寄りアーティストしか聞かないないわけではない。若いアーティストも聞いている。そのなかで推薦したいのはディア・ティック、ニッケル・アイ、イズラエル・ナッシュ・グリプカの新作だ。
 ディア・ティックはハンク・ウィリアムスの音楽を聞きバンドをはじめたというジョン・マコーリー3世が2004年にロードアイランド州で結成した4人組のロックンロールバンド。ニッケル・アイは5人組ロックバンド、ストロークスのベーシストであるニコライ・フレイチャーがはじめたソロプロジェクト。自作曲が中心だが、レナード・コーエンの曲もカバーしている。
 アメリカ中西部に生まれたイズラエル・ナッシュ・グリプカがニューヨークに移り住みデビューアルバムを発表した。ディランのイメージと重なる部分もあるが、久しぶりに心をときめかせてくれる新人アーティストが出現した。声もサウンドも楽曲もいい。

 ぼくは男性ヴォーカルの音楽以外はあまり聞かない。しかし、仕事中のBGMには男性ヴォーカルのCDは適さない。注意力がどうしても音楽に引かれてしまうからだ。したがってBGMにはインストゥルメンタルの心地よい音楽を選んでいる。
 そうしたなかで特に気に入っているのがクレズマー・ジュース2のアルバムだ。ニューヨークで結成された彼らは、名前の通りクレズマー(東ヨーロッパのユダヤ人たちが生み出した音楽)を専門としているようだ。ややおかしな表現だが、軽快な哀愁感がたまらなく気に入っている。

 CDの時代になってから、技術の発展により昔の音源もうつくしいサウンドによみがえって続々とCD発売されるようになった。今年はぼくの大好きなティム・バックリーとレナード・コーエンのCDが発売された。バックリーは1967年のライヴ、コーエンは1970年のライヴといずれも40年も前の録音とは信じられないほどの高音質でCD化されている。うれしいかぎりだ。

 ぼくはアメリカの音楽、ディランと関わりのある音楽しか聞かないわけではない。日本人の音楽もたまには聞く。今年聞いた中で際立っていたのが頭脳警察と浦沢直樹のアルバムだ。
 頭脳警察のパンタは不思議な男だ。「血の色足せば黒の賑わい」「死んだら殺すぞ」といった歌詞はどこから生まれるのだろう。強烈なメッセージがストレートなロックサウンドに乗って伝わってくる。たしかに頭脳警察はインターナショナル・ロックンロール・バンドだ、と思わせる1枚。
 ぼくは漫画に深く接することなく人生を過ごしてきた。めずらしいタイプかもしれない。だから浦沢直樹についても、恥ずかしいことに彼が偉大な漫画家であることを最近までよく知らなかった。2年前にディランのトリビュートコンサートで初めて彼と会い、彼の歌を聴いて驚いた。彼の歌に対する姿勢がディランととても似ていると感じたからだ。昨年末に発売されたアルバム『半世紀の男』を聞き、改めて感動した。伝えたい歌詞を無理なくロックサウンドにのせて歌っている。

 最後は年末も近いということで、クリスマスミュージックについて書きたい。
 ぼくはクリスマスミュージックが好きで、今までに100枚以上を聞いてきた。過去最高に気に入っているアルバムは、ブルース・コバーンの『クリスマス』(1993年)。毎年12月になると、わが家でこのアルバムがヘビーローテーションとなる。ほかにもヨーマ・コウコネン、ローチェス、ジェスロ・タル、ランディ・トラヴィスなどのアルバムをよく聞いてきた。
 しかし、今年からがらりと変わることになる。ボブ・ディランがクリスマスアルバムを発表したからだ。しかも想像以上に完成度の高いアルバムだ。ディランが子供のころから楽しんできたクリスマスへの思いをストレートに表現したようだ。伝統的、オーセンティックな選曲とアレンジ、50年代の古き良きアメリカを思わせるような雰囲気の良質のクリスマスアルバムに仕上がっている。ディランの歌唱力のすばらしさに気づかされる内容だ。なお、ソニーミュージックのディラン・スペシャル・サイトに 詳細な解説 を書いたので、ご覧になっていただきたい。
 また収録曲の1曲「マスト・ビー・サンタ」のプロモーションビデオもつくられた。カツラを着けたディランが踊りまくる楽しい映像で、大笑いできる。
 今年はディランのほかにも、スティング、デヴィッド・アーチュレット、トーリ・エイモス、ニール・ダイアモンドなどもクリスマスアルバムを発売したので、聞き比べるのもいいだろう。

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