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うたとギター
シンガー・ソングライターがギターを弾きながら一人っきりで歌っているアルバムを聴きながら…

「そんなの関係ねえ」ボブ・ディラン


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Bob Dylan / Good As I Been To You

前回は音質というか、録音の話ばかりになってしまいました。それは録音する人間、制作者にとってはこだわるべき大問題なんですけど、リスナーにとってはどうでもいいことかもしれません。そして制作者は、制作者でありながらも、リスナーであることを忘れてはいけない。今回はそんなことを僕に教えてくれるアルバムです。

このアルバムを初めて聴いたとき、なんだこのギターの音は!と思いました。あ、いけない、また音のことを書いてしまった……。いや、けど、そう思ったんだからしかたがないか。

というのは、弾き語りなのにギターのボトム(低音)がやけにズドーン、ドドーンと太く鳴ってるからです。ありえないほどズドーン、ズドーンと響いてます。

おそらくこれは生音にラインの音を混ぜているからだと思います。つまりエレアコを使って、マイクで録った音にピックアップで拾った音を重ねている。ズドーンと鳴っているのは電気的に増幅されたラインの音だと思います。違ってたらごめんなさい。

このアルバムは1992年のアルバムで、こないだ書いたようにアンプラグド・ブームまっ盛りの頃です。生音ではありえない迫力のあるアコースティック・ギターのサウンドを求めてあえてエレアコを使ったんだとは思います(エレアコの生音は純なアコギのよりも劣るのです、例外もあるし、好みの問題ですけど)。けれど、もしかしたらそれだけではないかもしれない。エレアコを使う方が録音が簡単だからそうしたのかもしれないな、とも思うんです。

アコースティック・ギターのマイキングは難しいんです。立てる位置で音が違って来るし、ギターによっても、弾き方によってもベストのポイントが違ってきます。ちゃんと録ろうとするとセッティングに時間がかかります。その点、エレアコは簡単です。コードを挿せばそれでOK。音の位相が変になることもありません。それに、立って歌って、ギターを揺らしながら弾いても音は一定です。マイクで録るときは体を動かしたくても、あまり動けません。

ボーカルマイクを一本立てて、エレアコにケーブルを一本挿して、セッティングは完了。あとは気分よく歌うだけ。

そしてミキシングするときに、マイクで録ったのでは足りないギターの低音をラインの音で補う。ちょっとずつフェーダーを上げて、上げて、上げていったら……補い過ぎちゃった!まあ、そんなことはないだろうけど、音質がどうだとか、録音がどうだとか、そんなことよりも気持ちよく演奏することを優先した結果、こうなったんじゃないかな、と思ったりします。

細かいことはどうだっていい、そんなの関係ねえ、大事なのは演奏なんだ。パフォーマンスが大事なんだ。いい演奏をして、ただ録ればいいんだよ。音がどんなだって、伝わるんだよ。好きな歌を好きなように歌えばいいんだよ。ボブ・ディランさんは、そう言っているような気がします。

こう言うと怒られるかもしれませんけど、ジャケットもなんとも気の抜けた…(笑)ジャケットなんてどうだっていいんだよ、関係ねえ、って言っているかのような、てきとうな(失礼)感じ?けど、ボブ・ディランって、そんなところが、たまらんのですよね。

演奏もところどころでミスってるんですけど、そのまんまです。そんなの関係ないんです。たいしたことじゃないんです。そう教えてくれたので、僕ももうすぐ出るニュー・アルバムではミスを気にしませんでした。ミスしていてもそのテイクを採用しました。小さいミスよりも、気持ちよく歌えていることが大事だと、ボブ・ディランさんが教えてくれたからです。これは言い逃れ、そしてまたしてものネガティブなキャンペーンです。ふふ。

閑話休題。このアルバムで歌われているのは自作曲ではなく、古いフォークソング、半分以上の曲が作者不詳のトラディショナルソングのようです。これがいいんですよね〜 英語圏のミュージシャンがなんだかうらやましいと思ってしまうのは、こういうのを聴いたときです。現代にも生きている、古くさくない古い歌をたくさん持っていることがうらやましいんですけど、ボブ・ディランさんたちが生き返らせたからこそ、今もあるかもしれませんね。

このアルバムが出たとき、ボブ・ディランさんは、もうたくさん曲を作ったし、作りたい曲はぜんぶ作ってしまった、だから自作曲でないアルバムを作った、というようなことを言っていたような気がします。その後、現在まで続く全盛期再来のような旺盛な創作活動が続いているので、それはそのときの一過性の気分から出た発言に過ぎなかったんでしょうけど、そんな気分のときに、立ち返れる場所(歌)があるのは素晴らしいことですよね。やはりまたしても“Back To Basic"、基本に返れ、ということかもしれません。そこに一度戻ってみたからこそ、その後の快進撃が始まったのかもしれません。

あ、けど、日本にも歌の伝統はありますね。もっともっとずっと古くて、現代でも歌い継がれている歌が。万葉集とかの短歌。これは日本語の誇るべきところですね。

<関連リンク>

ここで試聴できますよ。
http://www.amazon.com/Good-as-I-Been-You/dp/B0012GMX56/

田辺マモル.com
http://www.tanabemamoru.com

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