ホームホームマガジン > 桜井芳樹/酒場にて > 東京

酒場にて
日本全国常に一見。だが、旨い酒にはこと欠かない。酒と少しの音楽の話。

東京


photo

 少しくらい地面が揺れたところで、酒は飲むのである。

 この日は速やかに打ち合わせを終えて、帰路につく夕方、駅に向かう途中の居酒屋に吸い込まれた。客はいない。店主の挨拶はなく、カウンター内で電話をしている。声が大きいので、話の内容はよくわかる。どうやら、東日本大震災の影響で仕入れがままならないようだ。が、客に気づいたのか、すぐに大きい声で応対してくれた。

 カウンターに腰掛け、生ビールを注文。すぐにおしぼりと共に目の前に置かれた。テレビの音は小さかったが、店内は静かなのでよく聞こえる。大岡越前の再放送だ。ああ、このテーマ曲は覚えがあるし、結構すきだな、なんて思っていると、揺れた。たいした事は無い。もう余震への警戒も慣れて来ている。

 携帯電話で地震情報を確かめてみる。ああ、なるほど、とそんなことすら肴にビールを飲む。

 大岡越前は終わり、ニュースをやっている局に変えたかったが、原発事故の状況を聞きながら、酒を飲むのは気が進まない。話だけならともかく、セシウムもウランもプルトニウムもストロンチウムも肴にはならん。と言うわけで、つまみは何にしようか、なんて考えていたら、目の前にお通しが運ばれた。なかなか気が利いているではないか。おからが良いね。

 その後、また揺れたような気がしたが、気のせいだろう。とは言え、生ビール一杯で酔っぱらったわけではない。


 どうもこのところゆっくり一人で飲んでいるつもりなのだが、落ち着かない。が、まあ仕方が無い事だ。こうやって普段通りに息をつけるだけでも、どれほどの幸せであろうか。と、そんなことを噛み締めつつも、電車の運行状況が気になり、一杯でやめておく事にして、速やかに下り電車に乗った。車窓からみえる桜が奇麗な夕方だった。

 生ビール一杯のみの注文。760円也。

  • 前回の記事
  • この連載のトップ
  • 次回の記事

▲新着順▲著者順