2023.03.24
元銀河鉄道、ヨシオ・J・マキが「最初で最後」という気概でこしらえた『the first and the last』
かつて彗星の如く現れ、音楽業界の重鎮たちをも唸らせた、銀河鉄道というバンドがあったことをご存知でしょうか。それまで主流だった四畳半フォークとは全く異なる次元の音楽性と、恐ろしいほどの才能を持ち合わせたその4人の高校生は、「全国アマチュアフォークコンテスト」で優勝し、1975年にフィリップスレコードよりデビュー。音楽制作のイロハを彼らに教え、育てたのは、何を隠そう当時フィリップスレコードの担当ディレクターで、後にこのMIDI INC.を設立する大蔵博氏です。
1stアルバム『銀河鉄道』をリリースした年、彼らの閃きは尽きず、2ndアルバム『ミルキーウェイ』までをも制作。しかし、’76年、銀河鉄道は突然解散してしまいます。大きな理由や仲違いがあったわけではありません。しいて言えば、時代の先を行き過ぎていた、そして、時代を待つには若すぎた、ということでしょうか。メンバーは別々の道を歩むようになり、結局『ミルキーウェイ』は、カバーアートまで完成していたにも関わらず、その後四半世紀のお蔵入りという運命を辿ります。と、ともに、銀河鉄道という鮮烈な打ち上げ花火の記憶は跡形もなく消え、一部の高感度音楽ファンの間でのみ「伝説の」という冠つきで語り継がれてきました。
1st『銀河鉄道』が復刻されたのは2002年のこと。同年、あの幻の『ミルキーウェイ』が、MIDI INC.から初めて世に送り出されました。そこに至ったのは、解散後も何かにつけてメンバーの相談役となっていた大蔵氏の思いも大きかったはず。佐藤博氏プロデュースのこの『ミルキーウェイ』は、50年経とうかという今でも、楽曲、歌詞、サウンドともに非常にソフィスティケイトされた印象を放っており、20歳そこそ若者たちの底知れなさにあらためて驚くばかりです。ニュー・オーリンズ香る「ショートケイク」や、シティポップの先駆けといってもいい「夜の魔法」、ブルージィな「素敵な日々」など、ぜひ耳を傾けてみてください。
さて、本題にいきましょう。2023年1月、銀河鉄道の中心メンバーであったヨシオ・J・マキ(牧良夫)が、ソロとして久しぶりのフルアルバム『the first and the last』を発表しました。3月22日、そこから特別に編集されたアナログ盤が、MIDI INC.から発売されます。といっても、幻の銀河鉄道のメンバーですから、マキのプロフィールが謎だらけなのも当然。ぜひ、彼のリアルを感じていただきたく、ここから少し解散後の足取りを紹介します。
マキはバンド解散の翌年、大蔵氏に誘われて、弱冠20歳でLAに渡ります。バイトで糊口を凌ぎながらも音楽への思いは萎むことはなく、マキはLAでの生活基盤を築くと同時に音楽学校にも通い、様々な出会いを通じて活動の幅をジワジワと広げていきました。80年代後半には裏方に回ることを決め、あの「全国アマチュアフォークコンテスト」の審査員のひとりで、はっぴぃえんどのディレクターとしても知られていた三浦光紀氏の下、アメリカ、イギリス、日本のレコード会社のプロデューサーとして、ジャズやフュージョン系をはじめとした数多くのCD/DVDを手がけました。
奮闘実って1992年には、米国カリフォルニア法人の映像、音楽制作会社を設立。そこからマキは、あらためて自分自身から湧き上がる音楽への思いを見つめ、ソロ作品に向かうようになります。’93 年には大蔵氏との共同プロデュースでフルアルバム『OVER THE STREAMS』をリリース。続くミニアルバム『Angel’s Song』、『ノクターン』も、MIDI INC.から発売されています。
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そこから30年近い歳月が流れました。もちろん、その間マキはけっして止まっていたわけではありません。会社として映像、音楽制作に勤しみながら、日本語でゴスペルを歌うクワイヤ・NCM2 CHOIRの活動を率い、2005年には銀河鉄道のメンバー・本田修二とデュオユニットGINTE2をスタートさせ、さらに、ハリウッドで俳優としてのキャリアも開拓。大きな話題作への出演も果たしています。もどかしいことだけれど、何事も一朝一夕にはいかないのが世の常。その全てを付かず離れずずっと見守ってくれていた大蔵氏が、2020年5月31日、天に召されました。
マキは、生前交わした言葉を胸に、自らの音楽と正面切って向き合い、生涯のメンターである大蔵氏に捧げるアルバムを完成させます。それが『the first and the last』なのです。針を落とせばスーッと耳にしみてくる、新しいような懐かしいようなシンプルな音。もともとギター弾きの歌うたいであったマキの根源が、滋味深い味となって刻まれています。そして、そこには、途切れずずっと続いていたマキと音楽との物語が息づいています。MIDI INC.から発売となるアナログ盤のライナーノーツでは、そのあたりをたっぷりと書かせていただきました。
実はマキさん(いつもの呼び方で)とは、佐藤博さんが繋いでくださった長いご縁があって、前出の『Angel’s Song』に続き、この『the first and the last』でも、作詞・真沙木唯として参加しています。あらためてインタビューも行い、ライナーにはたくさんの興味深いエピソードを盛り込みました(本人の言葉による楽曲解説もあり)。ヨシオ・J・マキが「最初で最後」という気概でこしらえた素晴らしい音楽と一緒に、ぜひ、ご覧ください。マキの人生と重ねてご自身の時間旅行もお楽しみいただけたら幸いです。
文/藤井美保(真沙木唯)